2. 有機CMOS撮像素子室


① 銀塩写真技術の新規分野への応用


 国際画像会議ICIS 2002(東京)で内田と高田は”Image Capturing Ability and Image Quality of AgX and CCD Camera Systems" で両者の性能の機構の違いを考察した。その後、銀塩の分光増感技術とカラーフィルムの多層積層構造を固体撮像素子に組み込む有機CMOS撮像素子の提案と具体的な試作を行った。

基本的な考えは、映像情報メディア学会誌61巻9号フォーカス(2007)の伝統を生かす 有機CMOS撮像素子技術に述べられている。その後、「富士フイルムとパナソニック 有機薄膜を用いた有機CMOSイメージセンサー技術を発表」(2013年6月)のニュースリリース発表、さらにパナソニックの「有機薄膜を用いたCMOSイメージセンサによる広ダイナミックレンジ化技術を開発」(2016年2月)のプレスリリース発表などが続いている。


 フレキシブルエレクトロニクス・有機エレクトロニクス・プリンタブルエレクトロニクスと呼ばれる分野は銀塩写真で培った材料と製造の基盤技術が生かせる分野であり、写真学会にはアンビエント技術研究部会が設置されている。

 写真はハロゲン化銀を金属銀に変換し、光量に応じた光学濃度で画像を作り、銀塩ホログラムは物体光と参照光による干渉縞を屈折率差で記録する。富士フイルムは、金属銀の導電性を利用した配線パターンニング技術を特許「透光性電磁波シールド膜の製造方法及び透光性電磁波シールド膜」(特許第4819141号、特開2009-124181)として取得した(リンク先から特許番号で検索できる)。本技術を用いた製品は、富士フイルム報告51巻63頁に「銀塩方式PDP用電磁シールドフィルム・シールドレックスの開発」として紹介され、さらにタッチパネル用の透明導電フィルムにも展開されている。


② 三層の有機膜を積層したCMOS素子の提案


 有機CMOSの最初の発表は2006年1月のIS&T/SPIEのElectronic Imaging 2006 で ”CMOS Image Sensor with Organic Photoconductor Layer having Narrow Absorption Band and Proposal of Stock Tpye Solid-State Image Sensor" と題して発表した。発表内容は富士フイルム研究報告52巻3頁(2007)「有機光電変換膜を積層したCMOSイメージセンサー」に纏められている。学会発表は日経エレクトロニクス(2006 1-30)の36-37頁にWhat's New 伝統が生きる「有機撮像素子で撮影成功 富士写が感度向上に道開く」と題して紹介され、有機CMOSと命名された。 


③ 有機&シリコン・ハイブリッドCMOSの提案


 翌年のElectronic Imaging 2007 およびInternatinal Image Sensor Workshop 2007 では、続報を報告した。

一つは撮像素子の最重要性能であるノイズ低減技術である。もう一つは緑光を捉える有機膜をCMOS上に積層し、青光および赤光はシリコン内に設置した画素で捉え、良好なカラー像が得られることを実証した。これらの発表内容は日本写真学会誌71巻2号71頁(2008)に「有機光電変換膜を積層したCMOSイメージセンサー:暗電流の低減」として纏められている。


④ パンクロ有機膜を積層したCMOS素子試作


 富士フイルムは第三の構造として、白黒フィルムと同じ様に薄いパンクロ有機光電変換膜を信号読み出し回路のCMOS上にベタで成膜する素子を試作した。その優れた撮像性能が、富士フイルム研究報告55巻14頁(2010)に

画素サイズの微細化に適した新有機CMOSイメージセンサー」と題して報告されている。日経エレクトロニクス (2009 8-10)のレポートでは「CMOSセンサに新星 有機材料で高感度と安さを実現へ(富士フイルムが裏面照射品への対抗技術を発表)」として紹介された。さらに、富士フイルム技術報告57巻(2012)には、IISW2011の転載論文「有機光電変換膜を積層したCMOSイメージセンサー:斜め入射光の捕捉についての光学的優位性」が、59巻(2014)にはIISW2013の転載論文「全色光に感光する有機光電変換膜を用いた有機CMOSイメージセンサ:信頼性と性能」が報告されている。日経エレクトロニクス(2011 7-11)には「裏面照射型の”次”を狙う、富士フイルムの有機CMOSセンサ(入射角依存性を大きく向上させ、実用化に一歩前進)」として紹介されている。


略歴


・1946年:神奈川県川崎市で生まれる

・1969年:電気通信大学通信材料工学科を卒業

・1971年:東北大学大学院研究科物理修士課程修了

・1971年:富士写真フイルム(株)足柄研究所に配属

・1996-1999年:(社)日本写真学会理事

・2000年:東京工業大学工学博士を授与される

・2000-2007年:東京工業大学大学院連携准教授

・2003年:富士写真フイルム(株)高度専門職フェロー

・2007年:富士フイルム(株)執行役員先端技術研究所長

・2012年:富士フイルム(株)退社

・2010-2012年:(一社)日本写真学会会長

・2013年~:千葉大学大学院融合科学研究科客員教授