3. 素粒子原子核乾板室


① 原子核乾板による素粒子研究



日本写真学会誌79巻1号60-64(2016)

特集 見えてきた原子核乾板活用の世界ー原子核用感光材料の乳剤設計

原子核乾板は電離放射線の飛跡を記録する感光材料であり、「研究方法の開発と中間子の発見」で1950年にノーベル賞を受賞したPowellによって導入された。空間分解能が高い三次元的な検出器として不可欠な存在だが、顕微鏡による飛跡解析の煩雑さが課題であった。この問題は、名古屋大学の基本粒子研究室(F研)の自動読取装置で解決され、現在再び研究が活況を呈している(写真学会誌「見えてきた原子核乾板活用の世界」78巻4号(2015)および79巻1号(2016)の特集記事参照)。 下記のPDF は高田の特集解説「原子核感光材料の乳剤設計」である。

 電離放射線に対する感光機構に関しては、共同研究者の井浜三樹男の学位論文「ハロゲン化銀乳剤の潜像形成機構の研究(千葉大学、2013年)の第二部に詳しく述べられている。


② 原子核乾板の乳剤設計


日本写真学会誌77巻3号238-247(2014)

科学写真乳剤設計-電離放射線の飛跡検出用乳剤の場合

現在の標準品は、富士フイルムで製造されたOPERA実験の感材であり、開発者の桑原と西山が写真学会誌67巻6号521頁(2004)に

新規原子核感材の開発-オペラ実験に使用するニュートリノ検出用原子核感材で解説している。

 近年、基礎物理の研究者が研究目的に最適な乳剤を試作する実験環境が整い、原子核乾板を用いる研究は新たな局面を迎えている。高田と久下は写真学会誌77巻3号238頁(2014)に「科学写真乳剤の設計-電離放射線の飛跡検出用乳剤の場合」を執筆し、翌年の1st ICIS2015(Tokyo)では”Design of photographic emulsion to detect ionizing radiation tracks:Detecting ultra-short tracks with an ultra-fine grain emulsion” を報告した。

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Design of photographic emulsion
ICAI論文PS8489 .pdf
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③ 低速粒子飛跡の高感度検出の提案


日本写真学会誌79巻3号275-279(2016)

低速粒子飛跡の高感度検出に関する考察

-低温トリボルミネッセンスの観察から-

 新規原子核感材を用いる暗黒物質(Dark Matter)飛跡の高感度検出法が名古屋大学から提案されている。この場合、従来の高速荷電粒子検出と異なり、電子的阻止能と核的阻止能の二つの

メカニズムが作用すると考えられる。後者の写真作用に関する提案を行い、暗黒物質の高感度検出の考察を行った。



④ 印刷製版感光材料における超硬調画像形成法-電離放射線の飛跡検出のS/N比向上-


日本写真学会誌80巻2号97-103(2017)

印刷製版感光材料における超硬調画像形成法のレビュー

-電離放射線の飛跡検出のS/N比向上を目指して-

 原子核乾板は研究目的に適合したOn Demand設計の時代を迎えている。設計では、大きな潜像と小さな潜像を弁別し、飛跡検出のS/N比の向上が求められている。本報では、印刷製版感光材料での超硬調画像形成法のリス現像・造核現像・選択現像の技術に関してレビューする。該超硬調化技術をベースに原子核乾板に適用できる飛跡検出のS/N比向上法に関して考察を加える。



⑤ 反転現像によるカラー画像形成法のレビューー溶解物理現像による放射線飛跡の補力ー


最初のカラーフィルムは反転現像から始まったが、一般アマチュア用途は簡易な化学現像のネガ・ポジ方式に移行し、溶解物理現像の反転方式はプロ用のリバーサルフィルムに限定された。原子核乾板は、放射線飛跡を高精細に記録するためには微粒子化が望ましいが、微粒子化すると化学現像による飛跡の光学顕微鏡観察が難しくなる。従って、飛跡記録の高精細化と飛跡解析の大面積&高速化は、原子核乾板の相反する命題である。本報では、反転現像法および拡散転写法で実用化された溶解物理現像の技術を振り返り、原子核乾板に於ける相反する命題に関して考察する。

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溶解物理現像による放射線飛跡の補力
写真学会80_3/解説_高田.再.pdf
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⑥粒子内部に構造欠陥を含むハロゲン化銀粒子の調製-原子核乳剤のサイズ領域の拡張-


 

従来、原子核乾板には意図的な構造欠陥を含まない微粒子単分散乳剤を標準的に使用してきた。光学顕微鏡を用いた素粒子の飛跡を効率的に解析するために、粒子サイズの選択範囲を拡大することが望ましい。しかし、大サイズ粒子の高感度乳剤では、感度・カブリおよびそれらの経時性・圧力性を含めて性能保証するために工夫を行ってきた歴史がある。本報告では、カラーネガあるいはレントゲンのような高感度フィルムの開発の歴史を振り返り、工夫の一つである粒子内部の構造欠陥に関して考察を行う。

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構造欠陥を含む粒子
2018原子核乾板「構造粒子」(名古屋大学).pdf
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表彰関係


・1980年:日本写真学会進歩賞:ハロゲン化銀物性研究

・1985年:日本写真学会技術賞:超高感度カラーフィルム

・1987年:日本化学会化学技術賞:特異構造粒子の開発

・1991年:日本写真学会グラフィックアーツ賞:硬調画像

・1997年:全国発明表彰科学技術庁長官賞:構造粒子

・2004年:米国画像科学技術IS&T学会フェロー

・2012年:日本写真学会名誉賞